第4章 今晩のおかずは鱚みたいです
「正直、走馬燈を見たんも1度や2度やない。何べんも見て――その内、あることに気づいたんや」
「ある事?」
「走馬燈の中で見るんは、いつも主はんの笑顔や……って。せやから自分決めたんや、死ぬときは惚れた女の笑顔見ながらにするって」
――っえ?そんな理由?って言うか、何と言うか、ほ……惚れた女?
え?誰が?私?いや、私じゃなくて不特定多数?え、あ、もう駄目。とにかくメチャメチャ恥ずかしいんですけど!!?
つい国行の顔を直視できず両手で顔を隠すと、国行にその手を無理やりはがされた。国行はいつも通り気力の無い笑みを浮かべながら、顔を覗き込んできた。
「ぷっ、冗談や、冗談。主はんが思いのほか真剣やったから、ちょおからかってみてん。許してや」
「か、からかった!?」
くっそー!やられたー!!そうだよなー、国行がそんな甘いストーリーを展開するわけが――
……ちゅっ。
――ん?なんか今、一瞬だけ国行の顔がドアップになって、ちゅっ……と唇に柔らかい何かが触れた気がしたんだが……。
「ごちそーさん。ほな、みんなが帰ってくるまで昼寝でもしましょ?」
国行は座布団を丸めてその場ですやすやお休みになられやがりましたが、被害者の東雲朔夜(20歳)は、国行にキスされたと気づくまで小一時間その場で固まっていたという……。