第1章 はじまり
秋の高く澄み切った空の下
最後の稲束を手に取り空いた方の手で額に滲む汗を拭う
ーーーこれでお終いっと
熟れた稲を稲架に掛けフゥと息を吐いたところで声が掛かった
「お茶入ったさかい休憩にしよかー?」
振り向くと稲刈りが終わった田んぼの上にシートが敷かれていてすでにお茶の用意がセットされていた
遠目からでも美味しそうなおはぎの山が見えて思わずゴクリ、と唾を飲み込む
『はい。』
控えめな返事をしニコニコと手招きをするお婆ちゃん達の元へ足をむけると
「、お疲れさん。」
『あ、、信ちゃん、、お疲れ様』
少し離れた場所で刈り取りをしていた信ちゃんだ。
首に掛けたタオルで汗を拭う姿が何だか大人っぽくて思わず視線を泳がせる
歳はひとつしか変わらないんだけどな、、、
ドキドキと脈打つ心臓を誤魔化すように帽子を深く被り直す
「刈り取りもだいぶ板についてきたな?今やも立派な戦力や。」
『そう、、かな?』
「せやで?めっちゃ助かっとるし。俺らみたいに若いモンが頑張って少してもばぁちゃん達に楽させてやりたいしな。」
そう話す信ちゃんの目線は背中を丸めて座るお婆ちゃん2人に向いていて。
その優しい眼差しは私の方など向いてないのにまたしても心臓がトクンと音を立てた