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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】



午前4時。
あたりは薄明るくなって、茹だるような暑さで目が覚めた。

冷房はタイマーで切れていた後で、暑がりな俺には夜が明ける瞬間が少しだけ悪夢から解放されたような気分になれる。

今日も仕事だ。
やりたくもないが、こんな俺を少年院から拾ってくれた無惨様に恩報いるため、今日も体を作ることから一日が始まる。

ゆっくり体を起こした後、キンキンに冷やしておいたレモン水を流し込んだ。

汗が気持ち悪い服を取り払えば、奇妙なタトゥーが昔の嫌悪感を呼び起こす。

シャワーの水、冷たさになぜか涙腺が痛い。

ふと、今回の仕事で俺の担当になった女。
彼女が俺の体にペイントを施す線を指でそっと撫でる。


ここにまた彼女の作品として、俺はもう一つの魂を宿すのだ。

そう思うと憂鬱で退屈な日々に光が差すような気がしている。




出かける用意が済み、履歴には仕事の迎えの連絡が来ていたことに気づく。

あぁ…。

もう少しで、あの暖かい手に触れられる。

何も知らないアイツの、暖かい温度、職人気質か仕事熱心で人に関心の無さそうな瞳。

あれだけが、俺をそっとしておいて、俺の心が凪になる瞬間だ。

黒いキャップに黒マスク。
サングラスは今日はなしにして、マンションの下に待機するマネージャーの車に乗り込んだ。

「猗窩座さん、おはようございます!今日はですね…」
「いい。解ってる。テキトーに連れていけ」
「…はい」

黒いセダン車。今日も座り心地なんてどうでもいい。

周りは、訳アリを好んでタレントとして受け入れてることを知る一般人スタッフだからか、どこか腫れ物に触らず、へこへこしている奴ばかりだ。

気色悪い。

窮屈だ。

セピア色にしか映さないギラギラした太陽と空が、心のひずみを余計に露わにして、俺を全否定しているように思えた。

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