第1章 出逢い
「さあさあ、お寿司が届きましたよ。なあんにもない町だけど、お魚だけは美味しいの!」
「こんな美人さんのお嫁さんには奮発して特上だ!いっぱい食べなさい。母さんビール!」
「あらあら午前中から!」
「いいじゃないか。めでたい日だ。凛帆さんもどうかい?」
「じゃあ、少しだけ………」
「それじゃあ、三人でカンパイしましょうね。」
(本当、お義兄さんの言うとおり気さくなご家族で良かった。)
新鮮なお寿司と手代木家自慢の『あら汁』をお腹いっぱいに食べて、凛帆は楽しい時を過ごした。
昼を随分と過ぎた頃、凛帆には聞き覚えのあるエンジン音が聞こえた。脩二のセダンだ。
「脩二!遅かったわねえ。」
「母さん、ただいま。
凛帆さんすまなかった。トラブル手こずって。」
「ううん、いいの。お義父さんとお義母さんと楽しくお話ししてたから………」
「脩二よ、いい嫁さん見つけたなあ〜」
父親は大分酔いがまわっている様だ。
「ありがとう、父さん。」
「脩二、お昼は?お寿司あるわよ。」
「いや、遅くなったから軽く食べてきた。
凛帆さん、僕の部屋へ行こう。海が見えるんだ。」
脩二に連れられ凛帆は屋敷の二階へ上がった。
来る時は気が付かなかったが手代木家は緩やかな傾斜の上にあった。
「うわあ、いい眺め!」
脩二がかつての自室のカーテンと擦りガラスの窓を開けると、さきほど列車から見えた海が広がっていた。
「凛帆さん、久し振りに帰ったからあんなに駅前が寂れてしまったとは知らなかった。タクシー、前は何台かいつも停まっていたのだけど。」
「大丈夫だったよ、お義兄さんがここまで送ってくれたから!」
「兄貴が?」
脩二は眉間にシワを寄せた、
「うん!お義兄さんもお義父さんもお義母さんもみんないい方たちで良かった!」
「………凛帆さん、じゃ東京帰ろうか。」
「えっ!?もう?」
「実はまだトラブル処理が残っているんだ。申し訳ない。」
慌ただしくいとまを告げて、脩二と凛帆は海辺の町を後にした。
(せめてお義兄さんがお仕事から戻るまで居たかったなあ。あらためてきちんとご挨拶したかったのに!
………もしかしてお義兄さんと脩二さん、あまり仲良くないのかな?正反対の性格っぽいもんな。)
「凛帆さん、疲れた?」
物思いに耽っていた凛帆を脩二が気遣った。