第3章 廃校のバラード
車を返して駅裏のレンタカー店を出た凛帆を脩一のRV車が待っていた。
「お疲れさん!」
凛帆の姿を確認した脩一は車から降りてきた。
「お義兄さん!さきほどはありがとうございました!」
頭を下げる凛帆。
「いや、たまたま。ホント偶然でさ。
びっくりしたでしょ、あのジムチョの変わり身ったら。」
ワハハハと豪快に笑う脩一。
「Z町(ここ)で困ったら手代木(親父)の名前を出すといい。今はただの爺だけど昔は町議会議員をやってたほど顔がキク人だからさ。」
(………優しそうなお義父さんだけどなかなかの名士なんだ……)
「今日は終わり?」
「あっ、そうです!これから電車でまっすぐ帰宅します!」
「もし、時間大丈夫ならさ、ちょっと面白い所案内するけどどう?せっかくのZ町での初営業の日だからスケベ事務長のお口直しにさっ。」
「ありがとうございます!ぜひお願いします!」
またも助手席に載せられた凛帆。
「なかなか車ん中片付かなくていつも狭くてごめんな。」
「いえいえ、お気になさらず。」
「あ、でもコレ!」
脩一は運転席と助手席の間にぶら下げた葉っぱの形の芳香剤を指で弾いた。
「またお嫁ちゃん乗せるかもしれないと思ったからホムセンで買っといてよかった!こないだ、汗臭かったでしょ?」
「ぜ、全然大丈夫ですってば!」
凛帆はささいなことに得意気な脩一が可笑しくて吹き出すのを堪えていた。
「そうだ!コレも良かったら。」
脩一は体を伸ばして相変わらず散らかっている後部座席からコンビニの袋を引っ張り出した。
一瞬距離が近くなって凛帆はドキリとした。
ぽん!と無造作に缶コーヒーが手渡された。
「え?」
「ん?コーヒー嫌いだった?」
「い、いえ。大好きです!ありがとうございます!」
脩二もコーヒー好きだが、こだわりがあって気に入りのカフェの決まったコーヒー豆で淹れたものしか飲まない。
「缶コーヒーは甘ったるいだけだから。」
カシュ………
さっそくプルタブを捻って喉に流し込んだ缶コーヒーは確かに甘ったるかったが、少し疲れていた今の凛帆には心地良かった。