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シトロンの雨/夏油傑/R18

第1章 一粒、···雨



酷く、雨の降る夜だった。
私は目の前にいる人物を見て、言葉を発せられずにその場に佇んでいた。

偶然だった。

それは"彼"も同じだったようで、学生時代だった頃よりも大人びた雰囲気を纏っていた。
私達の周りだけがまるで、スローモーションにかかったような錯覚に陥っていた。

雨粒を吸った彼の長い髪からは雫が垂れて、地面へ落ちた。

「-···夏油、くん」

「···。何だ、今もそんなふうに呼んでくれるのかい?」

夏油くんは、困ったような嬉しいような複雑な表情で笑みを浮かべていた。
柔らかな声色は当時と変わらず、懐かしさすら覚えた。

「だって···」

忘れるはずが無かった。
だって彼は友達として、私の好きな人の1人だったのだから。
出来ることなら、また4人で一緒にバカ騒ぎした日常に戻りたいとすら願う。
いつだって、夏油くんは私達の仲間なんだと言う認識がまだ私の中に残ってしまっている。

「君は本当に変わらないね。相変わらずだ···」

悲しみに揺らいだ彼の瞳は、雨の降る空へと向けられた。
だけど···。
次の瞬間、殺気を向けられて印を組んだ。

-··· ノウマク サンマンダ バザラダン カン···。

ピンっ···。
私の周りから水面が広がるように、辺り一面が静かになった。
これは帳では無く、私自らの結界。
そしてこの結界の外に帳を張る。

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

これで帳が張れたから、私自らの結界は解いた。
帳の中には私とこの呪霊だけ。
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