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【夏目友人帳】海底の三日月

第1章 邂逅


妖怪は日常的に見ているが、天使を初めて見た。
小さな天窓しかない暗い地下の部屋。
鳥かごのような円柱形の檻の中、床いっぱいに描かれた陣の中に座って、格子越しの天窓に向かって精一杯両手を伸ばす、真っ白な翼の少女。
部屋に入る前から感じていた、膨大な妖力。人間のものとは思えない。
一目見て、欲しくなった。

「そばで声をかけても?」
少女の現在の保護者、という名の所有者である少女の義理の叔母に尋ねると、
「今は話ができないと思いますよ。もともとあまりコミュニケーションがとれない子だけど…。何見てるかわかったもんじゃない、監視カメラみたいで本当に気味悪い子」
と、苦々しげに吐き捨てた。

それでも檻に近づいてみる。
雨上がりの光が差し込む天窓を見上げて、何かを掴もうとしているかのように両手を伸ばす姿、天使というのはこういうものなのだろうかとキリスト教徒でもないのに考えてしまう。

「こんにちは。的場静司と申します。月代さやぎさんですよね?」
一瞬だけ目があったような気がした。ほんの一瞬だけ。
目が合ったと思った瞬間、彼女は床に倒れこみそのまま動かなくなった。
背中の翼は消えている。
長い髪で顔はよく見えないが、眼を閉じて眠っているようだ。

「どうしたのだ」と問うように彼女の保護者を振り返る。
「力を吸い取り過ぎたか、この子自身が頭を使いすぎたか、どちらかだと思いますよ。少し前までずっとかごの中で暴れていたから、単に疲れただけかもしれないけど、もともと突然眠る子だからね…」
この膨大な力をこんな子供だましの術で吸い取り過ぎることがあるかとに苛立つが、見えぬ者に言ってもわからぬことと思い直して黙っている。
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