第1章 プロローグ
路地裏にひっそり佇むユウさんのお店。
10人入れば満席のカウンターだけの小さなお店だけど、オーナーのユウさんのお人柄と美味しいカクテル、そしてそれに合わせた気の利いたおつまみが人気で知る人ぞ知る名店だ。
私も職場の先輩に連れて来てもらって以来ハマってしまった一人。今では一人でフラっとやって来てしまうほどだ。
「今日はいったいどうしたの?無茶な飲み方して。」
「……あはは、ワタシにもいろいろあってねえ。」
――――ぐっとレモン水を飲み干した。
眠ってしまった間に夜もだいぶ更けたらしく私の他にお客はいない。
「……ま、生きていれぱ誰でもいろいろあるものよ。」
ユウさんは洗ったグラスを拭きながらふっとため息をついた。
ユウさんはいつも頭にバンダナを巻いていて体格からして男性だと思うのだけど話し方や仕草、繊細さからして中性的?というのが相応しいのか?!
いやもうこの時代、性別など拘るのはナンセンスだと思う。女、男、どっちだって魅力的な人は魅力的なのだから。
(私には魅力って………ないんだろな………)
そう、このところ立て続けに「いろいろ」あったせいか、常に頭はモヤモヤして考えはネガティブな方にしか向かわなかった。
数ヶ月前に学生時代からだらだらと付き合ってた彼氏がちっとも将来のこと考えてくれなかったから自分から見切りをつけた!だって私ももう「アラサー」になってだいぶ経つし!
これからは気持ちを切り替えて仕事に一層精を出そうと思った途端に郊外の倉庫勤務を言い渡された………いわゆる「リストラ」だ。
『何だったらこれを機に退職されてはいかがですか?林さんは女のコですからそろそろおめでたいお話もあることでしょう?』
と上司!!
(あんの、時代錯誤なクソじじい!)
私は怒りが蘇ってきて無意識にカウンターを拳でだん!と叩いていた。
「――――玲ちゃん、良かったらこれどう?」
少しジンジンする拳にユウさんが可愛らしいピンク色のショップカードを載せてきた。
「ん?何ぃ……?」
「馴染みのお客さんが置いていったんだけど………決して怪しい所じゃないから。」
ショップカードに踊る文字を見て、まだ酔いの覚めていない私は大声で笑った。
「何これえ!!怪しさ満点じゃない!」