第2章 しりとり【不死川実弥】
─────つかの間の休息。
「ねぇ、実弥さん。しりとりしない?」
居間でくつろいでいたら、円華が唐突にそんなことを言いやがるから、おはぎを持つ手が口の前で止まっちまった。
「あ?なんだァ、急にィ」
「し、り、と、り!はい!実弥さん、"り"からね」
俺の隣で楽しそうにする円華を横目に、仕方なく付き合う事にした俺は頬杖をつく。
「…律儀」
「ぎ、ぎ…あ!義勇!」
「…名前っていいんかァ?」
「いいに決まってるじゃない!はい!実弥さんの番!」
しりとりの何が楽しいのか分からんが、円華に吊られて口元が緩む。
「う、ねェ…うるさい?」
「…なんで疑問形?別にいいけど…居間!」
「間抜け」
「け…け?んー…蹴落とす!」
「誰をだよ」
「ふっふっふ、ほーら、す!」
ふざけて含み笑いをする円華の長い髪先に手を伸ばし、指先でクルクルと遊びながらしりとりを続けた。
「…すばしっこい」
「…い、いー…伊黒!」
「…お前、俺しか居ねぇからってさっきから呼び捨てたァいい度胸だなァ」
まァ、円華相手なら誰もが許しちまうんだけどなァ。
「え!?そんなんじゃないよ!?さん付けしたら"ん"になっちゃうんだもん!…というか、実弥さんのしりとりおかしくない?」
やっと気付いた円華の頭をくしゃくしゃに搔き撫でた。
「何もおかしなところなんてねェぞ。
律儀で、
うるさくて、
間抜けで、すばしっこい。」
「え、何それ。何か嬉しくない単語ばっかり」
顔を顰め口をとがらせる円華の唇を奪い、視線を合わせると途端に赤くなる円華。
「お前の事だろうがァ。ばーか」
「んな、っ、え!?…実弥さんのすけべ!!」
何処にすけべな要素があったかは知らねェが、文句を言う円華を他所に、俺はおはぎにかじりつく。
「…円華。夜、覚えとけよ?」
じろりと円華を横目に睨みつけると、慌てて謝罪してきたがそんな事はどうでもいい。
「寝かせてやんねェ」
「いーやー!ごめんなさいー!」
─────翌日、円華は任務を休んだ。
2024.6.27
Fin