~たゆたううたかた~【禪院直哉/R-18/短編集】
第5章 ごっこ遊び 【禪院直哉】
お料理は…鮎と鱧を使ったもので
どちらも直哉様のお好きな物だから、
多分指定してるんだろうけども…。
目にも舌にも美味しいお料理を
頂いて、祇園又吉を後にする。
「あの…直哉様…」
『ん?何なん?ちゃん。
なんか聞きたい事でもあるん?』
「直哉様が…行きたい場所に
行くための準備と言うのは……一体」
直哉様には行きたいラブホテルがあって
その為に、準備が居ると仰っていた。
私にはそれが何か見当もつかなくて、
又吉さんの外に出たタイミングで
直哉様に、声を掛けた。
『知りたいん?まぁ…、
腹ごなし…がてら
この辺ちょっとブラブラしようや…』
この辺りは…気軽に楽しめる割烹や
高級な料亭が…軒を連ねている。
有名店も数多くある…エリアだ…。
雰囲気のある石畳の花見小路を歩いて。
鴨川の方へと…進んで行くと。
鴨川まで出てしまわずに、
宮川町通りに入って行った。
清水五条から祇園四条にかけての
南北700mを走っている宮川町通は、
京都の5大花街の一つである
宮川町の中を通る通りだ。
古くからのお茶屋や置屋が軒を連ねていて。
飲食店等は少ないからか
雰囲気としては落ち着いていて。
昔ながらの花街の街並みを
ゆっくりと眺めながら散策するには
向いている…通りだった。
『着いたで、
ここで支度して貰おうや』
そう言って1軒の京町屋の前で
直哉がその足を止めた。
赤い暖簾の掛かっている
その建物の中に入ると。
昔ながらの佇まいをしていて。
ここは一体何のお店で
何の支度をするのだろうかと…
そう思っていると……。
『今日は世話になるわ、
予約してた禪院なんやけど…』
受付らしき所の若い女性に
直哉がそう声を掛けて。
それまでの趣のある京町屋から
ガラッと…雰囲気が変わって…。
ここは…昔ながらの京町屋を
改装して作られた花魁体験が出来る
フォトスタジオなのだと気が付いた。
「直哉様…あの…支度って…」
『花魁の格好して写真撮れんねんて、
んでその恰好のまんまで
衣裳借りて、出掛けられるらしいねん』
「え…、ちょっと…
理解が追いつかないのですが…
要するにここで花魁の恰好をして
その恰好で外に出ると言う事ですか?」
『せやで?』
「外に出る恰好じゃ…無いんじゃ…?」