第1章 つよがり いいわけ かわいい子
「お邪魔します…」
「へいへい、どーぞ。って俺の部屋じゃないけど。」
部屋に入ってみれば思った以上の広さ。
部屋のランクも私が普段出張で使用するシングルサイズではなくツイン。ベッドの数が2つだからと同室者がいるか確認すれば答えはノー。ツインの部屋を1人で利用しているらしい。
夜久はそんな話をしながら鞄を下ろし上着を脱ぐと備え付けのデスクにそのまま放る。それに倣うように私も横に鞄と上着を置くと端末を手に取る。
「夏乃はこっち。」
窓際の、インテリアに馴染むセットの机と1人掛けソファ。その片方に座らせられると、夜久は反対側に座り買ってきたばかりの袋を漁り酒とつまみを取り出した。さっき飲めなかったもんなと目の前に差し出されたのはビール。受け取りプルタブを開ければ炭酸の破裂するような心地よい音。隣の夜久も缶を開いたようで差し出してきた缶に乾杯の意味で軽く押し当てると一気に半分ほど飲み干した。
「お、いい飲みっぷり。」
「飲まなきゃやってられないよ。」
「失恋のショック?それとも、俺の気持ち聞いたから?」
缶から目を離せばくりくりの瞳がこちらを覗いている。気まずくて残りを一気に飲み干すと机に空の缶の小気味好い音が響く。
「そう、だよ。だって夜久は友達で…」
「そうなるように俺が仕向けたんだからしょうがねえじゃん。その方が側にいられることもわかってたし。」
「でも、急すぎて戸惑う。」
「そうだよな、でも慣れてな。」
「私、可愛げなんてないよ。強そうって言われて振られてるし。」
「さっきから見てて飽きねえ。真っ赤になったり戸惑ったりで表情がころころ変わって可愛い。」
言い返そうと開かれた口がそのまま閉じる。
お酒が入っているのもあるけれど、机越しに私に向く視線はおおよそ友達に向けるソレとは違うのが私でもわかる。
柔らかくて熱っぽい。
「また頬真っ赤になったな。りんごみてえ。こんなに可愛いのに夏乃から離れていった奴らはバカだよな。」
ソファから立ち上がり私の前に移動した夜久の、こちらに伸びてきた指が火照った頬をくすぐった。
知らない。
こんな感情知らない。
今までの恋愛は穏やかで、心地よくて
跳ね上がるような
心臓が痛くて苦しくなるような
こんな気持ちは初めてだ
でもそんな気持ちを見透かされたくなくて、私の口から出たのは強がり。