第1章 つよがり いいわけ かわいい子
会計を終え店の外に出れば、黒尾は海と2人で帰ろうとしている。行かないでと目で訴えるが、こちらに向けられた黒尾の表情は至って真剣。
「俺たちは帰るから、ちゃんと夜っくんの話聞いてやること。付き合うも付き合わないも、ちゃんと話しないと始まんねえだろ。」
店の前、私の頭をバレーボールのように片手で鷲掴む黒尾。そのまま夜久の隣に並べられてしまえば、黒尾は海を連れてさっさと帰ってしまった。その背中を目で追っていればなあ、と声が思ったより近くで聞こえ、肩を跳ねさせる。
「俺と2人きりは嫌?」
持った鞄を掴む反対の手に指が絡む。
パーソナルスペースの内の内。背中に張り付くように近寄り、私にしか聞こえないように耳元で囁かれる声に頬が染まっていくのがわかる。
「そん、な…」
「嫌だったら振り解いて。」
絡んだ指が、私の皮膚をなぞる。
手入れの行き届いた指先が手の甲をなぞり、思わず握り返すと柔らかな笑い声と共に夜久の方を向かされる。
「さっき黒尾も言ってたけど飲み直さねえ。俺も久々に帰国してるからいつもみたいに話したい。そんで提案、次の店探すのかったるいからコンビニで酒買って俺の部屋来ねえ?こっから歩いて10分かからねえし。」
飲みの誘い。先程黒尾にもちゃんと話せよと言われたから、やっとの思いで頷くと、絡んだ手はそのまま繋がれて"こっち"と引かれていく。
繋がれた手はそのままでコンビニへと向かう。買い物をして会計、夜久が泊まっているというホテルまで移動、部屋に到着。その間ずっと、手は繋がれっぱなし、だった。