第4章 つよがり いいわけ あやうい子
裏口から抑えてもらっていた部屋に入れば、会場に向かう黒尾の代わりに孤爪くんが待っていた。先日の件を謝れば、話題性充分だったようで、情報を知りたかった人たちがスパチャ?やSNSでチャンネルの宣伝をしてくれたらしく、逆にお礼を言われてしまった。
「緊張、してる?」
時間が迫るにつれそわそわする私に笑みを浮かべる孤爪くん。落ち着いた物言いの彼の隣に座るとそのまま足を抱える。
「しないわけないじゃん。」
「大丈夫だよ、夜久くんだもん。」
「夜久だから…?」
疑問で返事を返せば、柔らかな笑みを浮かべながらテレビのリモコンを操作し会見の会場を写す画面を見つめた瞳にテレビの画面が映り込みきらきらと反射する。
「夜久くんって出会った頃からずっとまっすぐで強くてかっこいい人だから。自分の気持ちも周りの感情も全部"繋いで"くれる格好良い人だよ。」
"お待たせしました。それでは会見を始めさせていただきます。"
「それに椎名さんのこと好きな気持ちは誰にも負けないと思うよ。10年以上片思いしてるんだもん。」
"夜久衛輔です。今回は集まっていただきありがとうございます"
「音駒のみんな、やっと付き合ったってほっとしてるんだから。椎名さんが離れようとしても、もう離してくれないんじゃない。」
“先日の報道の件ですが、記事に関しては事実で彼女とは結婚を視野に入れて交際をしています"
外側からの目線と画面の夜久の言葉に叫び出さないようにするだけで精一杯。アナウンサーが彼女の好きなところなんて聞くから、近くの枕を掴んで顔を埋めてしまう。
「好きなところ…強いところですかね。現在、所属がロシアなのでなかなか会えないし、時差があるので連絡できる時間も限られてる。試合が入ればその間は連絡も取れないこともある。それでも俺のことを待っていてくれる強くて優しい子です。」
ありがとうございます、そう言って次の質問へ移ろうとしたアナウンサーの言葉をでも、と遮る夜久の顔から目が離せない。
「でも、誰よりも強い子だから俺が守ってあげたい、そう思うんです。」
隣の孤爪くんが立ち上がりティッシュを数枚取り私の前に差し出す。
「その涙は、夜久くんが来るまで取っておいて。」
受け取ったティッシュでメイクが取れないように目元を押さえながら拭き取れば、私は深く頷いた。