第4章 つよがり いいわけ あやうい子
数日の食料を買い込み自宅へと戻る車の中で黒尾に伝えられたこと。
できればネットスーパーかUberを使って、外には出ないこと。
その日に必要なものがあれば黒尾か孤爪くんに連絡をしてほしいこと。
この2つ。
わかったと頷き裏口の客用駐車場に車を止めてもらえば急いで2人で車から降りて部屋に向かう。まだマスコミらしい人はいないようだ。
私が部屋に上がると、一緒に革靴を脱ぎ部屋へと着いて来る。ご丁寧に靴を揃える姿は育ちの良さが伺える。奥の部屋に通しながら台所に回るとお湯の準備。
「紅茶とコーヒーならどっちがいい。」
「コーヒーかな。」
あいにくコーヒーは引き出物やプレゼントでもらったものしかないため、自分の紅茶にお湯を注ぎ蒸らしている間にドリップ式のコーヒーにお湯を注ぐ。どちらも出来上がるとそれを持ち部屋へ向かえば、黒尾はソファではなくラグに座っていた。
どうぞとコーヒーを置き、机越しに前に座る。いただきますとコーヒーを飲む姿は、いつの間にかジャケットもベストも脱ぎネクタイさえも緩んでいる。
「一応独身女の家なのに油断しすぎじゃない。」
「油断しても何もならないのがわかってますからね。で、やっくんとどうなの。」
…だろうと思った。
あの飲み会の後、私から連絡を入れることがなかったので聞きたかったのだろう。でも意外。夜久も何も言っていなかったようだ。
「……まあまあ、ってとこ。おかげさまで、順調、かな。」
「記事書かれちまうくらいには親密ってことでいいんだな。記事見て時差のこと忘れて速攻連絡入れちまったくらいには驚いた。」
身内のみに見せる緩む表情に本当に喜んでいるんだなとこちらまで嬉しくなる。そんな折にふと鳴るメッセージアプリ。確認すれば目の前の黒尾。
「すれ違い起きねえように俺と夏乃と研磨でグループ作った。研磨が先に食材買った後に俺が買ったら腐らせちまうだろ?」
……一理あるが、孤爪くんはいいのだろうか。完全に外野なのに巻き込まれている。
「……何か、ごめんね。巻き込んで。」
内心は重い、でもそう感じさせないように軽く伝えれば前から伸びた手のひらが私の頭を撫でる。大きくて優しい手。でも欲しい手ではない。
「何言ってんだ。困った時はお互いさまだろ。」
顔を上げて黒尾を見れば、その顔は笑みを湛えていた。