第3章 つよがり いいわけ かよわい子
終わらない仕事へのプレッシャーと夜久に会いたい気持ちが渦巻きながらの仕事。ここを越えれば少しは楽になる。そんなタイミングでの先方との打ち合わせ。
上手く伝わらない意見と無慈悲に増える修正。
これ、根を上げたのは相手の会社なんじゃ…と思いながらも必死に顔に出さないように耐えるが、修正と相手のセクハラまがいの言葉に打ちのめされて打ち合わせは終わった。
帰社時点で午後7時を超え、今日も残業だなとため息を吐いた時、不意に端末が鳴る。
夜久の文字に心をときめかせ、近くの空いた会議室を使用中にしてすぐに電話に出れば街中の喧騒と聞きたかった夜久の声。
「もしもし、今仕事中?飯食った?」
今、残業中なの。来週納期なのに今日の打ち合わせで修正もらっちゃった。
心配かけないように明るく話したかったけれど、私の唇は動かない。その代わりに唇は夜久の名前を呼んでいた。
「夜久…やく…っ、もりすけ…」
異変に気づいた夜久の声は硬くなる。今どこにいる、そう聞かれて職場にいると答えればすぐに電話が切られた。
やっちゃった。
心配かけたくないのに。
こんなにすぐに電話が切れるなんて、呆れられたかな。
やらなければいけない仕事があるのにその場から動けない。
疲労と、出してしまった弱った姿が、私の体力を奪っていく。
修正部分とみんなの進み具合のチェック。やらなければならないことがたくさんあるのに、会議室の床に根を張ってしまったかのように動けない。
助けを求めたい夜久は、飛行機の距離。
焦る気持ちばかり胸に渦巻いていれば、不意にメッセージアプリが通知音を鳴らした。