【WIND BREAKER】愛なんて知らなかった(R18)
第6章 ※恋愛のカタチ
side 沙良
「こんにちはぁ…」
16時5分前、その人が現れた。
時間を守れる人は信用できる人だと、幼い頃からそう言い聞かされて育ってきた。
『十亀さんっ……こんにちは。』
店の前で、まだかまだかと待ち構えていた私を見て、十亀さんが目を細めた。
「準備万端だねぇ、 沙良ちゃん…
久しぶりのポトスは楽しみ?」
『はい…緊張しちゃって…
昨日はあまり眠れませんでした…』
「…ふふっ、大丈夫?」
『はい…』
じゃ、行こうか、と私の先に立ち、誘導してくれる十亀さん。
広い背中。
大きな体。
ポトスは目と鼻の先。本来ならこの距離を誰かと歩くなんて大袈裟だけど、この距離で…私は襲われたのだ。
「十亀君、頼むね。何かあったら連絡して。」
お父さんにそう言われ、十亀さんはニッコリと微笑んで返事をした。
「任せてください。」
二人で店を出ると、ポトスに向かってゆっくりと歩き出した。
賑やかな話し声が聞こえる。
活気のある商店街の雰囲気は変わらない。
ずっとここで生活していたはずなのに、まるで隔離されたかのように外の事がわからなかった。
『あの…十亀さん…』
「ん?なぁに?」
『こんなに近い距離なのに、送迎なんてすみません…
しばらくしたらそんな必要なくなると思うので…』
実際蓬莱さんはもう来ないし、十亀さんがこんな事をしてくれる理由は一つしかなかった…
『お父さんも多分…何もないってわかったら安心して、また前みたいにしてくれるはずなので…』
「……うん、そうだね。
けどまぁ…俺はずっとこうでもいいけどさ。」
『ぇ……?』
「さぁ、着いたね。」
あっという間にポトスに着いた。
あんなに楽しみにしていたのに、いざ入るとなると緊張で扉を開けるのに躊躇してしまう。
私の事も…覚えていてくれてるかな…
「…入らないの?」
『っ…入ります。』
「ふっ…先に入ろうか?」
『……お願いします。』
十亀さんに注意が向いているうちに、どさくさに紛れて入ろうだなんて、なんて意気地がないのだろう…
けど…そうでもしてもらわないと無理だ…
カランカラン
「あらっ、十亀…やっぱりまた来たんだ。
昨日は何で私達の事締め出したのよ…私だって話したかったわ。」
椿さんの声だ。