第1章 散らぬが星の八重桜(お相手・山崎)
「やっぱり、江戸の桜の方がいいですよね。潔く散って行く、桜!」
振り返って綺麗に微笑む五十鈴さんが、俺の目に焼きついた。
「そうだね。
江戸の桜が、恋しくなるね」
さくら味のパンケーキ、桜色のワイン、桜の花びらを使ったテーブルクロス。
あんなに煌びやかに見えた食堂車が、なぜか急に大切なものを見失ってしまいそうな、薄っぺらい空間に見えてしまった。
「五十鈴さん。
今度、お花見いきませんか?」
食事が終わったあと、座席途中の廊下で彼女に声をかけた。
「え?江戸のですか?
でももう今じゃほとんど散ってるかもしれませんよ」
「それでも。
いきませんか?俺の友達とか、変な知り合いとか、鬼畜な先輩たちとか、みんなで」
君にもっと暖かい、綺麗な桜を見せたい。
だからもっと、幸せそうに笑って。