第9章 3日目
気付いたら次の日になっていたみたいだ。いつの間にか寝ていて、いつものように早朝に起きたはずなんだけど、ここには外の窓がないから本当に朝かどうかは分からないんだけどな。
オラはボールペンを持ち上げたり下ろしたりしていた。他にやることがなかったのもあるけど、いつかこのボールペンであの女の子とお話し合いをするためにも必要だと思っていたから。
するとしばらくしてあの女の子がやって来た。前と同じで白い格好をして、今度は手に何か持っていた。
それがなんなのかと聞いても通じないんだけども、女の子は聞こえているかのようにこう答えた。
「これは名札。貴方の呼び方を変えようと思って」と女の子は言った。「うーん、でもなんて名前にしたらいいかな……」
名前? そういえば女の子に一度も名前を呼ばれていなかったな。
オラはオラの名前を教えてあげようとボールペンを持ち上げた。暇な時間に上手く持ち上げる練習をしていたから、もう軽々と持ち上げることが出来た。
だけど肝心の女の子には何も伝わっていなかったみたいで、オラのことを見つめるばかり。だからオラはカゴの中で自分の名前を書いてみることにした。
カゴはガラスだったからボールペンのインクはつかなかったみたいだけど、女の子はここでようやく分かってくれたみたいで、オラをカゴから出した。だからオラは机の上に自分の名前を書いてみた。今度はインクがちゃんと出た。
「カ、ズ……?」
女の子がオラの文字を読み上げた。オラは何度も跳ねてみたが、これが人間で言う「イエス」という回答になるかどうかは分からない。
「ストライダーさんは文字が書けるのね。それとも偶然そう見えるだけかな……?」
と女の子が言うものだからオラは何度も自分の名前を書いてみせた。書いている内にボールペンの重さにも慣れてきて、オラは何度も自分の名前を書いてやった。
「ふふ、同じ文字を書いているみたい」
みたい、じゃなくてそうなんだけど……やっぱ、人間とオラじゃあ伝わりづらいんだろうか?
「貴方の名前、カズってことにしようかな?」
オラはいいよ! って意味でその場で跳ねた。すると女の子はますます笑ってオラもなんだか楽しくなってきた。
「よろしくね、カズ」
こちらこそ、よろしくな、サツキ!