第2章 平穏の裏
「なんつうか、めちゃくちゃ疲れそうだなぁ」
「でも、それで上手く回るなら良いんじゃない?」
分からなくも無い。
ほんのちょっと、ほんのちょっとだけでも自分より不幸な人がいるなら、安心するというか気持ちに余裕が生まれる。
あの子よりはマシ。
そう思えば、心の置き場があるのだ。
そんな事を考えているなんて性格悪いって事は百も承知。
「じゃあ、お前はそのターゲットになったんだ?」
わざと皮肉に、ニヤニヤと笑って見せる黒尾に溜息ひとつ。
この男は本当に聡いな。
「だったら?」
「別に?」
俺がここで何かを言ったとしても、現状も過去も変わらないデショ?
そう言った黒尾はこの話はお終いだと言うようにドリンクを煽った。
そうだよ。黒尾じゃなくても、当事者の私が何かを言ったところで現状も過去も変わらない。
たらればを言っても無意味。
起こった事はやり直せない。言った言葉は撤回出来ない。剥いた瘡蓋は傷跡を残したまま。
変わるのは、変えられるのは、未来。
「あぁ、また負けたな」
黒尾の温度の無い声が妙に耳に残った。
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