第3章 **03
クラウィス様は私の両手をそっととると、騎士のように片膝を付いて、ちゅっ、と私の指に唇を寄せた。
「···っ、!」
流れるような、物語の王子様のような動作に私は思わず見惚れてしまっていた。
「もうこれ以上リーチェが傷つく事の無いように、婚約パーティーは早く済ませてしまおうか」
私の指先を掴んだまま、クラウィス様は水色の瞳を細めて微笑んだ。
「···えっ?」
「本心を言えば、このままリーチェを公爵邸に連れて帰りたいくらいなんだけど、エグゼリアが許してくれないだろうね。シスコンだし」
『何!?嫁入り前の娘がいくら婚約者と言えどお泊まりするなど···言語道断絶対許さない』
と、怒り狂う兄様の姿が手に取るように浮かんで苦笑いが漏れた。
「どうかな?リーチェ、君の意見はどうだい?」
(私の気持ちを、汲んでくれるんだ···)
愛され過ぎでしょ。
ベアトリーチェは何でこんなに素敵な人の気持ちを理解しようとしなかったんだろう。
と言うか、クラウィス様こそ中身が平々凡々な私で良いのだろうか?確かに所作や勉強してきた内容は有難い事に頭の中に残されてはいるけれど。
「···、逆に、クラウィス様は私でよろしいのですか?」
質問に質問を返すのは失礼な事はわかってはいるけれど、本物のベアトリーチェの魂で無い以上、相手が本当に私で良いのかと、不安になってしまう。
「私は君だから申し出ているんだよ。君とならこの先も上手くやって行けそうだし。私の事はこれから好きになって貰えばいい、そう思ってるよ」
(いい人過ぎるよ、クラウィス様···)