第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「こんな時に酷な事を言って申し訳ない…」
二人を埋葬したい。
炎柱が少女にゆっくり告げると、それまでどうにか曇天(どんてん)を保っていた空からぽつ、ぽつと雨が降って来る。
そこへ——
「奈緒ちゃん、私達も二人をきちんと見送ってあげたいの……それが残された者の役目だとも思うんだ」
「辛いな、俺もまだ…信じらんねぇよ」
「おじ、さん…おば、さん…」
応急処置をして貰ったのだろう、手負いの男女が奈緒に声をかけた。家族ぐるみで付き合っている隣人夫婦だった。
怪我をした互いの体を支えながら、ゆっくりと奈緒の元に歩いて来たのだ。
それから段々と強さを増して落ちて来た雫は、奈緒の泣き声を覆い尽くすように。彼女の体へ冷たく重く染み込んでいった。
★
「久織、お疲れー。非番なのに来て貰って悪ぃな! これ預かって来たんだ」
「お疲れ様です。私は構いませんけど…大事な話ってこのお手紙? の件ですか?」
朝からご機嫌。そんな太陽の光が差す昼下がりの事だ。
やや遅めの食事を終えた直後、奈緒は一人の男に呼び出された。
あの惨状から一年経ち、彼女は鬼殺隊に入隊した。
鬼に殺された両親や村人達の仇を討ちたい。
日輪刀と呼ばれる刀で鬼を狩る隊士を目指し、炎柱に紹介して貰った育手の元で鍛錬を積んだ。
しかし —— 懸命な努力が実る事はなく、隠と呼ばれる事後処理部隊へと転向したのだ。
「ほんっと急で悪い。これから本部へ行ってくれないか? お館様がお前に頼みたい事があるんだって」
「え? 本部って鬼殺隊本部ですか? 何かの手違いじゃ…」
「いや、間違いなくお前へのお達しだよ。その手紙に名前書いてあるだろ?」
先輩隠・後藤より文を預かった奈緒。
受け取った手紙を改めてしっかりと見つめた後、全身が震えてしまう。
【久織奈緒様】
流麗な文字が並ぶ封の後ろには、これまた流麗な文字で【産屋敷耀哉】と記されていたからだ。