第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「目に、数字……十二、鬼月…?」
「ふーん。それ知っているって事は、あんた鬼殺隊の人間か。その割烹着の下に着てるの、隊服とかってヤツ? でも刀は持ってないみたいだな」
奈緒が指摘した通り、彼の左の眼球には「下 弍」の刻印が記されていた。下弦の鬼は水色の瞳を少し細めると、顎に右拳を当てながら頸を横に傾ける。
「あれ? 俺あんたに似た女を殺したはずなんだけど」
「私に…似た…?」
瞬間、奈緒の両手から風呂敷がすべり落ちる。同時に、彼女の背中から冷や汗が静かに流れ出した。
「奈緒はお母さん似だね。女の子は男親に似るって言うから期待してたのに…俺、少し寂しいなあ」
彼女の脳内には昨年父親が自分に言った言葉が、行き場を無くしたようにぐるぐると渦巻いていた。
「そ、一年くらい前」
「いち、ね、ん…」
コロコロ、と風呂敷から転がった柚子の一つが鬼のつま先に当たって止まった。しゃがんで柚子を右手に掴んだ男が、再びニヤリと笑う。
「あの時もこれをたくさん持ってた」
そして、グシャッと果実を握り潰した。
「ひょっとして、あんた…あの女の身内とか?」
「……」
★
恵比寿、円山町と二ヶ所の見回りを終えた無一郎は自宅への道をやや小走りで歩いていた。
時刻は午後四時半。冬至が近い為、太陽は既に一日の役目を終えようとしている。
『今日のごはん、何だろう』
そこへ上空を飛んでいた一羽の鴉が、真っ直ぐ無一郎に向かって来た。
「カアー!! 十二鬼月ノ目撃情報アリィー! ココヨリ南へ五百メートル先ィー」
「近いね。銀子、案内して」
『無一郎ガ!! 私ノ名前ヲ初メテ呼ンダ…!』
霞柱の頭上を旋回しながら飛んでいた銀子であったが、想定外の事が起きた為に一瞬だけ思考が止まりかけた。
しかし、今はそれどころではない。
バサバサと黒い羽を上下に動かして、主を該当の場所へと誘導し始めた。
「被害等の状況は?」
「子供ガ数人、森ノ中カラ出て来ナクナッタミタイ。母親達ガ探シ回ッテルノハ見タヨ。ソレトネ…」
銀子が発した言葉を聞いた、無一郎の眉間に皺が寄る。