第4章 6つのお題から自由に選択
「……七瀬です」
七瀬も鬼の面を外した。
月明かりの下で、二人は初めて素顔を見せ合う。
「良い名前。随分と可愛い鬼だ」
視線が絡むと、男は穏やかに笑った。
まるで旧知の仲に出会ったかのような、懐かしさすら感じさせる。
「あ、あの……普段、町でお見かけしない方だなと思って、気になって追いかけてしまって……申し訳ありませんでした」
「あはは、不審者に見えた?……うーん、はじめましてかな?前から知ってるような感じがするけど。出会いは必然ってやつ?」
彼が肩をすくめて愉快そうに笑うと、七瀬の頬が薄く染まった。
異性からストレートに言葉をかけられることには不慣れ。胸の奥がざわめいて落ち着かない。
「童磨さんは、この町の方ですか?」
「転々としてる根無し草だよ。定住というものをしたことは、あまり無いんだよね。ああ、この町の夜祭の噂は以前から聞いていて、一度は見てみたいと思って寄ってみたんだ」
童磨は朗らかな笑みを浮かべながら答えたが、その表情に、微かな憂いの影を帯びる。
「七瀬ちゃんは地元の人?」
「生まれは違いますが、数年前からこの町にいます」
神社の外に向かって歩きながら、二人の会話は自然に続いた。
童磨は話上手で、退屈を感じさせない。
終始笑顔で人当たりが良い。
ただ、時折視線が合う瞳は硝子を見ているような無機質的な違和感があった。
光の加減でそう見えてしまうのだろうと七瀬は思い直した。
「よかったら一緒に行こうよ。一人だと寂しいし、俺は此処、初めてだしさ」
相手からの提案に、彼女は少し迷った。
初対面の男性と二人で行動するのは危険な気がする。
しかし、悪人には思えない不思議な親近感が理性的な判断を鈍らせる。
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