第3章 お題小説 Lemon
「義勇様、奈緒です。お呼びでしょうか」
「……俺は嫌われているのだろうか」
「え? あの…それは一体どう言う事です? 詳しくお話しして下さい」
式神である奈緒を召喚した男の名前は、冨岡義勇。
陰陽寮と呼ばれる組織に所属し、陰陽師になるべく様々な事を学ぶ学生(がくしょう)である。
濃紺の双眸にスッと通った鼻筋、形の良い唇 ——といわゆる眉目秀麗と形容される顔立ちだ。
「不死川の好物がおはぎと聞いたので、懐に入れておいたんだ。いつでも渡せるように」
「実弥様…大層お怒りになられたんですね」
「好物を渡したのに何故あんなに機嫌が悪くなったのだろう。俺にはよくわからない」
きっと人前で、それも彼の頃合いが悪い時分で渡したのだろうな。
奈緒は実弥が顔を真っ赤に染め、体を震わせながら激怒した様子を想像し、やや苦笑する。
式神が笑う姿を見ながら小首を傾げた義勇は隣に置いていた猪口に酒を入れ、口元に持って行く。
一気に飲んだ彼は、ふうと息をついた。
「檸檬の皮を使用した酒だそうだ。宇髄が異国の商人から勧められて購入したらしい。美味いからと一本譲ってくれた、のだが…」
「義勇様!」
ふらりと彼の体が斜めに傾くが、奈緒が抱き止めた為、義勇が倒れる事はなかった。
「酒の、度数が…かなり、強、い…」
「お顔は赤くなってませんよ? 義勇様は酔った時も見た目は変わらないのですね」
「体が…熱い…」
主の体から普段より高い温度を感じた奈緒は、人間の体の仕組みに思いを馳せる。