第8章 森へ
それからまたさらに数日経った休日、私はスマホを片手に森に迷い込んでいた。
「もーう、ここどこなの……」
白蛇さんに言われたことは、ある場所へお参りに行って勾玉を買って来て欲しいとのことだった。
その場所がどこなのかと聞いてみると、そこに記して置いたからと言い残して私の目の前から消えた。私は半信半疑で白蛇さんに指されたスマホを開いてみると、見覚えのないブックマークが残っていた。
白蛇さんは時々、こういうネット上のものを利用して私にアドバイスをくれることがあった。今回もそこに詳しく何か書いてあるのだろうと開いて見てみると、そこにあるのはマップと位置情報だけ。周りは一見森の中で、しかもここから結構遠い。
ということで私は休日、自車で行くのは大変だろうと、公共機関を乗り継いでようやく辿り着いたのがここ。私は今、人が通らないような森の中を彷徨っていた。
「もう少しだと思うんだけど……」
とスマホを見て気がついた。圏外になっている。
いよいよ恐怖を覚えた私は、さすがに帰ろうかと思い立った。この森を下って行けば元いた場所へ戻るだろう。私は足を止め、引き返そうとした。
「こっちですよ」
声がした。
目を上げると目の前が突如開け、暗い森にいた私は眩しくて目を細めた。それから光に慣れてきてゆっくり目を開けると、そこには真新しいような大きな鳥居が見えてきて息を飲んだ。
白い鳥居が、出迎えるようにそこに佇んでいた。
私はここが白蛇さんの言っていた場所だと直感的にそう思った。一呼吸置いて境内へ踏み込んだ。
長い階段を上がる途中に見える木々たちはどれも太く高く、先程いた森より古い場所なのだろうと思われた。なのに足元の階段や横の手すりは新品かのように美しく、苔すらも入り込んでいないその奇妙さが神秘的な美しさを生み出しているかのようだった。
ようやく階段を上がりきると見えてきた人工物は、よくある神社のように見えた。周囲のどれもが磨かれたような、木漏れ日を受けてキラキラと輝いているような錯覚とさえ思えてしまう。
奥に進み、大きな鈴がぶら下がった紐を揺らすと、涼やかな音が響いた。寒空にはちょっとだけ冷たく聞こえた。
「おや、ここに客人とは珍しい」
声がして私は驚いて振り向いた。そこには引きずるくらい長い着物を羽織った艶やかな女性が立っていた。