第5章 日中米/逆ハー? 血ヲ奉納セヨ
奇声を上げ、脇目も振らず駆け出す。
「はぁっ、はぁっ……!」
どこに向かってるかもわからないまま、振り返りもせず必死に走った。
「も……むりぃ……っ!」
力尽きて足が止まる。
きれぎれになった息を整えながら振り向くが、追ってきてはいないようだった。
空はいつの間にか、奇妙に鮮やかな虹色に戻っている。
最大限にパニックに陥っていた頭が、ようやく落ち着いてきた。
思い出せ――意図せず異界に足を踏み入れてしまったとき、どうすればいいか?
「動かず、じっとして時間が過ぎるのを待つ……ってめっちゃ走っちゃったよ!」
ネックレスの先にある石を、すがるように握りしめた。
お守りだ、と贈ってくれた人の言葉の数々を、心の中で反芻していく。
「中下位の妖からは守ってくれるはず……じっとして隠れてよう……!」
無意識にしゃがみこんでいたらしい。
よろよろと立ち上がり、あたりを見回す。
と、寺のような建物と、大きな池があることに気づいた。
青々と草が茂っており、一見すると現実世界にもありそうな景色だった。
「……早く戻りた――え?」