第1章 英/甘 マカロンの心得
ひとけのない踊り場。
そこに、二人はいた。
「じゃ、またあとで」
「うん!」
話を終えたのかそう声をかけあい、男女――とフランシスがその場を立ち去って行く。
廊下に響く足音が遠のき、完全な静寂が戻った。
アーサーは強張っていた肩をおとし、大きくため息を吐く。
「なにしてんだ俺……」
最近、妙にとフランシスの仲がいい。
会長の仕事が多く、休み時間や昼にと会えていないから、余計にそう感じるのかもしれない。
にしてもおかしいとアーサーは思う。
よりによってなぜクソ髭なのか、とも思う。
けれど、それを素直に尋ねることなどできない。
だからこうして、偶然いあわせた場で、盗み聞きじみたマネをしていたという始末だ。
と、携帯に“会長”あての呼びだしが入る。
忌々しげにそれを見ながら、脱力感とともにその場をあとにした。
「あーくそっ!」
そうこうするうちに放課後を過ぎ、下校時間になってしまった。
書類の山と格闘しなければならなかったアーサーは、当然と帰れなかった。
「そういや……家庭科室で待ち合わせとか言ってたな」
盗み聞きした内容を思いだし、アーサーはハッとかぶりを振る。
激しく気になったものの、覗きになどいけるわけがなかった。
行き場なく膨れ上がる不安と疑念を抱えながら、昇降口に向かう。
と、目の前に夕陽を浴びた影がふたつ伸びていた。
「……っ!」
そこには、仲睦まじく談笑しているとフランシスがいた。
とっさに下駄箱の影に隠れようと足が動く。
しかし、慌てたせいで派手に音を立ててしまった。
ぱっと女の影が振り向く。
「アーサー!」
「よ……よお……」
しまった、本当に最悪だ。
大声で悪態をつきたい気持ちになる。
バツが悪く目線を泳がせていると、
「それじゃ頑張って。ちゃんまた明日ねー」
と、フランシスがの頭をふわりと撫で、ヒラヒラ手を振り背を向けて歩きだした。
アーサーは一瞬目があった気がしたが、その表情は読み取れなかった。
「あぁっ、ちょ……!」
なぜか急にがあたふたしだす。
いきなり二人っきりにされ、アーサーも体がこわばった。