第3章 閑話 クライン家親子の会話
「そうか、宝飾店で。それで?」
「父上の仰った通りでした。」
「それで、フェリシア嬢は?」
「見惚れる所か、私に縋りついて来ました。」
ニヤリと笑う侯爵家当主。
「あんな小僧らに、後れを取るとは考えにくいが努々気を抜かぬ様にな。」
「はい。」
喧噪な状況の中、気遣わしそうな声が一つ。
「あまり怖い事をさせちゃダメよ?」
「分かっております、母上。」
「いい子そうだから、大切にしてあげるのよ?」
「それは勿論。フェリシアの代わりなんていないのですから、真綿に包めて大切にしますよ。」
息子の言葉に頷くのは父親。遠い目をしたのは母親だった。
「可哀想なフェリシアちゃん。息子に気に入られたばかりに・・・。」
「おや、心外な。直に、私のことを独り占めしたくなるくらい愛してくれるでしょうから問題ないですよ。」
「クライン家に見初められたら、こんな重い執着をされるなんてね・・・。」
「メルシア、後悔しているのかい?」
「後悔はしていないけど、たまにね・・・息が詰まる時があるのは事実よ。」
「仕方ないだろう?私が愛するのはメルシア只一人なのだから諦めてくれ。」
息子はいつものことと、温い目で両親を見ていた。
母親はアルベルトの出産時、体調不良で次の子を授かることが出来なくなった。周りは側室をと声を上げるものが現れたが、頑として妻はメルシア一人のみと言って今も尚、重い愛情を注いでいる当主。
「まぁ、でも・・・フェリシアちゃんをどんなことをしても、我がクライン家に迎い入れるのよ?あんな小童に奪われてはダメだからね。」
大概、メルシアもクライン家の色に染まっていた。
だが、相手の一人は婚約者が正式に決まっていない王族。気を引き締めて、愛おしくて可愛いフェリシアをどう囲い込もうかと思案するアルベルト。
愛情は零れ落ちる程にフェリシアに注いで、情に絆されてくれればいい。その為なら、どんな苦労も厭わない。
(少しくらいなら、味見してもいいか・・・)