第1章 ベトベト事件
「分かんないけど、これ開けたら……」
とまふまふさんが目で指すのは(というのも、まふまふさんはベトベト塗れで手足が動きにくいみたいだった)そこにいくつか置いてあるプレゼント箱。それはファンから送られたものであり、その一つが開いていてそこからベトベトが飛び出しているみたいだった。
「と、とにかく、ここから出ますよ!」
「う、うん……」
せっかくの綺麗な白い髪も謎のベトベトで台無しになってしまったまふまふさんを引っ張り上げる。早くこの状況から脱出させてあげないと、ベトベトのまふまふさんから良からぬ妄想が湧いてきそうで自分が耐えられなかった。
確かこのライブ会場には出演者用にシャワー室があったはず。早く洗ってもらわなくては。
「……って全然引っ張れない!」
「もしかして、重い……?」
「いやいやいや、そういうことじゃないですよ!」
明らかにベトベトがまふまふさんにへばりつき過ぎて引っ張れない状況を作り出している。それに女の私が細いとはいえまふまふさん一人を引っ張るのは難しいことなのかもしれない。
「私、人呼んできます。早くこの状況からなんとかしないと」
「ありがとう、七崎さん……」
ファンからのプレゼントでまさかこんなことになるとはまふまふさんもショックなのか声に元気がない。あなたの歌声はこんな変なことで失うものじゃないのに。ちゃんとファンからのプレゼントをチェックしなかった私も反省をする。
「あ、れ……?」
「どうしたの?」
「私も、動けなくなったみたいです……」
部屋に長居し過ぎたようだ。すでに部屋中に広がるベトベトは私の足をしっかり掴んで離さなかった。
「す、すみません、今すぐ人を呼んできますので……」
と必死に足を動かすがほぼ動かない。まだ自由の利く両腕を振り回すと、案の定バランスを崩して倒れてしまった。
「うわ、ベトベトが……」
「ふふっ、何やってるの?」
その時、丸い顔のまふまふさんからふわりと笑顔が咲いて私を見た。笑ってる場合じゃないのに、なんだか私もつられて笑ってしまった。
「もーう、笑わないでくださいよ〜」
「ごめんごめん」