第4章 ぼんコウモリ目線
「ぼんじゅうるはいつもそこにいるんだな」
と人間の少年が話しかけてきた。そうだな、と返事の代わりに鳴いてやると人間の少年は頭を撫でてくる。これは人間ならではの習性なのだろうか。よく分からないが心地がいいから黙って撫でられている。
それにしても、この人間の少年はなぜいつもここに来るのだろうと思う。ここは人間が暮らしづらい木々の中で、だから俺たちの住処を壊したのでは、と思うのだが。言葉が通じないので俺は人間の少年を見つめるばかりだ。
「じゃあまた今度来るな」
そう言って人間の少年は俺たちの住処を出て行く。人間の少年は決まって俺たちにブラッシングとやらをしてどこかに行くのだが、どうせならここに住処を作ればいいと思う。
それをみんなに話すとドズルがケラケラと笑った。
「それをしたらきっと僕たちの住処がなくなりますよ」
それもそうか、と俺は思ったが、人間の少年がわずかに見せる心の揺らぎのようなものが妙に気になっていた。
それほど俺は、その人間の少年を信頼し切っていたのだと思われた。
「そういえばぼんさん、いいんですか?」
唐突に切り出したのはドズルだ。
「何よ?」
俺が問えば、ドズルが小声でこう訊ねた。
「いいんですか? あの人間に、自分のちゃんとした名前を教えなくて」
「ああ……」
「なんでしたっけ、ぼんさんの本当の名前」
「ぼん・バトラー・ガブリエル準男爵だ」
「はははっ、相変わらず覚えにくい名前ですねぇ」
「名前に文句つけないでよ」
そう。実は俺は、あの人間の少年には隠している能力があった。
自分が見ているものを、人間や他の生き物たちに伝えるテレパシーがあること。