第5章 おんりーコウモリ目線
そんなある日、林の隅にぽつんと一本の赤い花が咲いていた。丸くて大きめで、木だらけの林の中では咲くことがないような花。俺はそれが妙に気になって花びらを持ち帰り、それを自分の寝床の枝にぶら下げると、次の日やって来た人間にこれはどうしたのかと早速聞かれた。
俺は人間に言葉が通じないのは知っていたから洞窟の天井に引っ掛けた枝にぶら下がったまま何も答えないでいた。すると人間が何か思いついたように走り出して洞窟を出、それから何かを持って戻ってきた。それは色んな色をした花だった。
人間はその花を次々に洞窟の天井を飾った。その様子に興味を持ったドズルさんやおらふくんが見様見真似で花びらを飾り始め、それからMENも加わってあっという間に俺たちの住処は彩り豊かになった。
「綺麗だね、おんりー」
人間が話しかけて来た。俺は返事の代わりに、キィと鳴いてやった。すると、今度は驚いたような顔して人間はこう言った。
「珍しいな……おんりーが僕の言葉に返事をするなんて」
そうだったっけ。俺は今までこうして人間と関わるようになってから過去を振り返り、そういえばそうだったかもと自分で納得した。
人間はすでに地面にいて触りやすいぼんさんの毛ずくろいを始めていて、俺の困惑なんて気付いていないみたいだった。まぁ、コウモリと人間なんて、大きく違うのだからこちらの心境が分かるはずもないのだが。
その内に僕もと言いながらおらふくんがその人間に近づいて行った。おらふくんは特に、その人間のことが気に入っているみたいで、毛ずくろいをしてもらうと気持ちよさそうに寝っ転がっていた。
俺もそっと近寄ったら人間がすぐに気がついて頭を撫でてくれた。最初はびっくりすることも多かったけど、今ではこの人間の手が心地いいと思う。
次の日には洞窟に風が吹き込んで飾った花はほとんど落ちてしまったが、人間とみんなで飾ったあの記憶は本当に大切なことだなと考えた。
今度は別のことをしてびっくりさせてやりたい。
そう思う程には、次またやって来るだろう人間のことを、心待ちにしていたのは本当のことだ。