第5章 戦火【土方歳三編】
ー元治元年・七月ー
あの池田屋事件から、もう一ヶ月も経っていた。
あれ以来、私と千鶴は外出を許可される日が前よりも増え始めていた。
どうやら、土方さんは池田屋事件での私や千鶴の働きを認めてくれたらしい。
あの土方さんが認めてくれている。
それが素直に嬉しかった。
この日、私と千鶴は十番組の巡察に同行して京の町を歩いていた。
「あの、原田さん。新選組は京の治安を守るために、毎日、昼も夜も町を巡察しているんですよね?」
「ああ、そうだぜ。……それがどうかしたのか?」
千鶴は前を歩いていた原田さんへと声をかければ、原田さんは少し不思議そうな表情を浮かべる。
「普段はどんな人を取り締まったりするんですか?」
「あ、確かに……。沖田さん達が不逞浪士を取り締まっているのは見ましたが、不逞浪士だけを取り締まったりしてるんですか?」
本当は前から気になっていたけれど、こういう質問を気軽に出来るのは原田さんか平助君と永倉さんぐらい。
でも、一番気軽に出来るのは原田さんかもしれない……彼は、新選組の中でもかなり面倒見のいい人だから。
「ま、ピンからキリまで大小様々だな。不逞浪士だけじゃなくて、辻斬りや追い剥ぎはもちろん食い逃げも捕まえるし喧嘩も止める」
「食い逃げ……」
「喧嘩……」
「商家を脅して金を奪おうとする奴らも、俺ら新選組が取り締まってるよ」
新選組のお仕事は、なんだか奉行所のお仕事と似ている気がした。
そして原田さんのお話を聞けば、あの池田屋事件は本当に大捕物だったみたい。
考え事をしながら、ふと道の先へと視線を向ければ、見慣れた羽織姿の人がこちらへと手を振っている事に気がついた。
「永倉さん!」
「そういえば、永倉さんも今日は巡察の当番だった……」
「よう、千鶴ちゃんに千尋ちゃん!親父さんの情報、なんか手に入ったか?」
永倉さんの質問に、私と千鶴は暗い表情をしてしまった。
「いえ。今日はまだ何も……」
原田さんの巡察に同行しながら、二人で町の人に尋ねたりしたけれど、父様の情報は全く無かった。
今の所、情報があったと言えば池田屋へ御用改めをする前に土方さんが古高俊太郎から聞き出した情報だけ。
「……んな暗い顔すんなって!今日が駄目でも明日がある。そうだろ?」
「……はい!」
「はい」