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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第16章 暗闇の音【沖田総司編】


翌日の朝。
よく晴れて、太陽の日差しが差し込む屯所は、以前の屯所とは比べ物にならないほど広い。

隊士の方々は、前の屯所で集まる時は狭そうにしていたけれども、今の屯所では隊士の方々が全員集合しても狭そうではなく、逆に伸び伸びとしていた。

今日、新選組隊士の方々は全員が集まっていた。
そして、広間には近藤さんの朗々たる声が響き渡る。

「皆も、徳川第十四代将軍・徳川家茂公が、上洛されるという話は聞き及んでいると思う。その上洛に伴い公が二条城に入られるまで、新選組総力をもって警護の任に当たるべし……、との要請を受けた!」

近藤さんの言葉に、隊士の方々は嬉しげにざわつき始めた。

「将軍公の警護を、新選組が……!?」
「こりゃ、とんでもねえ大出世だな」
「ふん。池田屋や禁門の変の活躍で、お偉いさん方も、俺たちの働きを認めざるを得なかったんだろうよ」
「警護中は文字通り、僕らの刀に国の行く末がかかってる、ってことですか」
「そういうことだ。てめえら、気合入れていけよ!」

皆さんの嬉しそうな話し声や、表情に私と千鶴も思わず釣られて微笑んだ。
将軍公の警護だなんて、原田さんの言う通り大出世であり、皆さんが喜ばれるのも理解できる。

「将軍公の警護とはまた……、大役ですな」
「ええ、本当に。山南さんが生きていれば、どれほどお喜びになったことか。本当に、惜しい方を亡くしましたわね……」

伊東さんは懐紙で目尻を拭っていたけれども、涙が出ているのは見えなかった気がする。
その事は言葉にせず、私はただ隠れて苦笑を浮かべるしか出来なかった。

山南さんが生きている事は、もちろん伊東さんや彼の一派の隊士さん方には伏せられている。
【薬】の一件は徹底して隠されていて、彼の生存を知るのは本当に隊の中でもごく一部の人間だけ。

「……伊東さん。此度の幕命を立派に成し遂げることこそ、亡くなった山南君が真に望んでいることだと思います」
「…ええ、わかっていますわ。私たちの名を、天下に広く知らしめる絶好の機会ですものね」
「ともあれ、これから忙しくなりますな」
「うむ。まずは、隊の編成を考えねば。とりあえず、俺とトシ、それから総司ーー」

そう、近藤さんが沖田さんの名前を出した時だった。
土方さんがすかさず、言葉を挟んだのである。
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