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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第11章 乞い求む【土方歳三編】


ー慶応四年・一月ー


鳥羽伏見の戦いにて敗北した新選組。
その後、江戸に戻った新選組と私たちは品川にある旗本専用の宿【釜屋】に身を寄せることとなった。
肩に傷を負った近藤さんと、労咳を患っている沖田さんは釜屋ではなく、松本先生の元で療養している。

鳥羽伏見での負け戦、大阪城撤退、そして幕軍の総大将たる慶喜公の恭順ーー。
どう見ても、幕軍や新選組に先行きが明るい展開にならないという自体に、隊内にも不安げな雰囲気が立ち込めていた。

「近藤局長は、いつ戻られるんだ?」
「もしや慶喜公のように、我々を見捨てて逃げてしまうのではあるまいな?」

隊士の方々の言葉に、私は眉間に皺を寄せた。
近藤さんの肩の傷は深く、決して直ぐに治るものでもなければ彼は逃げるような人じゃない。
その事を言おうとした時、私より先に彼らに言葉を投げた人物がいた。

「そんなこと、あるはずないです。余計な心配してる暇があるなら、言いつけられた仕事をしましょう」

彼らに言葉を投げかけたのは相馬君だった。
私と同じように眉間に皺を寄せているが、荒ぶるのではなくただ淡々と冷静に言葉をなげる。

「てめえら、お喋りが過ぎるぜ。暇でしょうがねえんなら、刀の手入れでもしたらどうだ?」
「はっ……!申し訳ございません!」

永倉さんが現れ、彼の一言により隊士の方々は逃げるように慌てて席を外す。
そんな後ろ姿を見送ると、原田さんは深いため息をつく。

「……ま、あいつらの気持ちもわからなくはねえかな。戦になった途端、総大将が真っ先に逃げ出しちまうなんて前代未聞だ」
「……しょうがねえさ。あの人は元々、尊攘派の急先鋒、水戸藩の生まれだろ?薩長の奴らが掲げた錦の御旗に、すくんじまったんだろうぜ。敵から見るとあんな御しやすい大将もねえよな」
「尊攘派だろうが佐幕派だろうが関係ねえよ。命懸けて戦ってる家来を見捨てて逃げ出すなんざ、腰抜け以外何物でもねえよ」

原田さんの言葉に、永倉さんも相馬君も顔に暗い影を落とすばかりだった。
本来ならば総大将である将軍公が逃げ出すなんて有り得ない。
しかも逃げたということは、命懸けで戦った藩や新選組を見捨てたのも当然。

原田さんが言葉に怒りを滲みさせるのは当然なのだ。
あれだけ、新選組や他の藩の方々は幕府の為にと血を流し続けて戦っていたのに。
そう思うと怒りが胸をざわつかせた。
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