第9章 修羅【土方歳三編】
ー慶応三年・六月上旬ー
伊東さん達が新選組から去って、もう三ヶ月もの月日が経っていた。
夏の季節に入り始めて、夜になると外では虫たちの声がよく聞こえてくる。
「……寝れない」
何故か理由は分からないけれども、布団に入っても寝付けれない。
何度か寝返りを打ったり、目を瞑ったりするけれども寝ることが出来なかった。
いっその事、素振りでもして身体を疲れさせて寝てしまおうか。
そう思いながら起き上がり、襦袢から何時もの着物に着替えようとした時だった。
「雪村、まだ起きてるか?」
「土方さん……!?」
突然、ふすまの向こうから土方さんに声をかけられて思わず身体が飛び跳ねてしまった。
慌ててふすまを開けて顔を覗かせると、土方さんが私を見下ろしている。
「あの、何かご用ですか?」
「おまえと、姉に来客だ。姉も呼んで、支度ができたら広間まで来てくれ」
「……来客?」
「来てみれば、わかる」
そう言うと土方さんは私に背を向けて、そのまま広間の方へと歩いて行ってしまった。
彼の背中を見ながら、少しだけ眉間に皺を寄せる。
(こんな時間に来客……?)
不思議に思いながらも、私は隣の部屋にいる千鶴へと声をかけてから二人で広間へと向かった。
「私たちに来客って……誰だろう?」
「分からない。でもこんな時間に来客だなんて……」
二人で話しながら広間に入ると、私たちは揃って驚きの表情を浮かべてしまった。
「やあ、すまないね。休んでいるところを起こしてしまって」
「いえ、それはいいんですけど……」
「二人とも、髪にすごい寝癖がついてるよ。結直してくる暇すらなかったの?」
「えっ!?本当ですか?すみません、私ーー」
「……千鶴、寝癖はついてないよ」
沖田さんは相変わらず、すぐ千鶴や私をからかってくる。
その事に呆れた表情を浮かべていれば、土方さんから厳しい声が飛んできた。
「総司、下らねえ冗談はやめろ」
「安心しろ。二人とも、別に寝癖なんてついてねえよ」
千鶴は恨めしそうに沖田さんへと視線を向けたが、彼はバラされたのが面白くなったかのかつまらなさそうにしている。
沖田さんには本当に呆れてしまう。
そう思っていると、土方さんの横に座っていた山南さんが私たちへと微笑みを向けてきた。
「……よく来てくれましたね。そちらに座ってください」