第2章 離婚して下さい
「…僕の奥さんが離婚したいって言ってきたんだよね。」
「……………。」
『意外と長く持ちましたね。』
『とうとう言われましたか。』
悟の言葉を聞いて、伊知地はこんな言葉しか思い付かなかった。
それでもどの言葉を伝えても、悟の機嫌は更に悪くなるだろう。
仕事の帰りに後部座席で何やらスマホに忙しい悟を見ながら、伊知地はそんな事を考えていた。
「まさかこの僕と離婚したいなんて言うとは思っていなかったよ。」
「………………。」
絶対離婚一択だろう。
伊知地は悟が結婚してからの10年を知っている。
悟が家庭を蔑ろにしていたのは、仕事が忙しいからではない。
興味が無かったからだ。
全く。自分の妻にすら。
その事を10年間側で見ていたのだから、しずくから離婚したいと言う言葉が出ても何も不思議で無かった。