第1章 Episode 01
人間の命は儚く、一瞬で消えてしまう。例えどんなに崇高な理想を抱き夢を持とうとも、体を握り潰されてしまえば、ただの肉塊と化してしまう。
エミリーは、自分が兵士に向いていないことは自覚している。あの日自分が選んだ選択、目の前に広がる光景。その全てがエミリーの心を日々蝕んでいく。忘れたくても、忘れられない。その記憶は決して消えることはない。自分の犯した過ちを、彼女は一生悔いて生きていくだろう。
「_っ.....」
また仲間が死んだ。数体の巨人の突然の襲撃に兵士達は最後まで戦い、その心臓を捧げたのだ。エミリーはわからない。何故彼らは死ななければならなかったのか。彼らの人生に意味はあったのか。
「_エミリー。撤退の準備だ」
「っ...了解」
彼女に命令を下すその男は、後悔の記憶から彼女を現実へと引き戻した。まるで後悔の記憶に浸るエミリーの心を見透かすように、ただ今必要なことだけを彼女に指し示す。しかし、彼女の心はずっとここに在らずだ。
壁内に戻った後も、エミリーの沈んだ心は変わらない。壁外調査の後はいつもよく思い出す。自分が死なせてしまった命への悔恨と、生き残ってしまった自分への嫌悪を。
「エミリー。まだここに居たのか」
「....エルヴィン。ごめんなさい、作業が終わらなくて。すぐに片付けるから」
「....」
兵舎廊下の奥の倉庫。まだそこで壁外から帰った後の備品の確認作業を行っていたエミリーの元に、エルヴィンがやって来た。彼は最初からエミリーの居場所を知っていた。いつも壁外調査の後にここで一人エミリーが涙を流していることを、エルヴィンはよく知っている。エミリーが新兵の時から班長として彼女を見守ってきた彼は、彼女の消し去りたい記憶を共有する唯一の人間だ。
_
「本隊から距離が離れた位置に巨人4体の襲来、その場にいた2つの班が全滅。....君があの日を思い出すのも無理はない」
「....」
それは、今回の壁外調査でエミリー達が遭遇したあの時の出来事だった。エルヴィンはもちろん、あれからエミリーの様子がおかしいことに気づいていた。それこそ、本隊が現場へと到着したその時すぐに。エルヴィンの語りかけに、エミリーは作業の手を止める。