第7章 夢
「ヤマトさんは、どうして雅楽舞踏役者を目指してるんですか?」
何気ない雑談のつもりで訊ねたことだった。だが、これはマズイ質問だったらしい。
「うん、そうだね……」
ヤマトさんの目に影が差し込んだ。俺は子どもながら慌てて言葉を繕った。
「あ、いいですよ、別に答えなくても!」
俺は無理に笑って手を前に振った。ヤマトさんも笑いはしたが、そこに明るさはなかった。
「ありがとう、トオル君。けど、いいんだ」ヤマトさんは言葉を続けた。「僕には目的も夢もないんだ。やりたいことが見つからないから、こうして出来そうなことをやっているだけ」
「え、それだけであんなに上手くなれるんすか?」
「ははっ、僕はまだまだだよ」
困ったように笑うヤマトさんは、どこか儚げに見えた。
「じゃあ俺が夢になるっすよ!」子どもだった癖に、俺は言葉だけは偉そうだった。「俺がヤマトさんを越えないように、ずっと上の役者でいてくださいね!」
そんな子どもだった俺の適当な言葉。けどこの時の俺は本気だったんだ。憧れの人は、ずっと憧れであって欲しいと。
するとヤマトさんが大口開けてハハハッと笑った。俺はその笑った横顔を見て、心がざわめくのを感じた。
「そうだね。トオル君のために、高みにいないとね」
そう言って優しく笑ったヤマトさんにドキリとした。俺がヤマトさんに恋心を抱いた瞬間だった。