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一宵の舞

第6章 尊敬から


 雅楽舞踏とは、あの時師匠に見せてもらった蝶の舞のように、生き物を表現するのが多かった。
 一の芸と呼ばれる、雅楽舞踏役者になるなら必ずやらなくてはいけないこの舞は、人間が化け狐に変身する様を表現しているらしく、これさえ出来れば他の芸も出来るようになると言われていた。
 師匠が見せてくれた蝶の舞は二の芸であり、一の芸を完全に習得した者が練習することを許されるものであった。しかし、二の芸も師匠が楽々とやってのけたようにそう上手くいくものでもなく、また意味不明な指示を受けていた。
「裾が垂れ下がっているぞ」
 そりゃあ着物は自分の体の一部じゃないんだからと文句を言いたくなることもあったが、その度に俺は師匠のあの舞を思い出し、そして遥か上にあるヤマトさんの技術に惚れ込み、自分もいつか……と闘争心を抱いていたのだ。
 そう。俺は、師匠と同じようにヤマトさんのことは尊敬の意を持っていたのである。そのはずなのである。
 あの日が来るまでは。
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