第2章 【安室 透】余裕のない裏の顔
声がした方を見ると、買い出しに行っていた梓さんが息を切らせて帰ってきた。
いつもより帰りが遅くて心配していたところだ。
「梓さん、おかえりなさい!何かあったんですか?」
「商店街のおじさんの話が長くて・・・!忙しい時間にごめんなさい!!」
そう。商店街に行くと店のおじさんやおばさんが、親切に声を掛けてくれる。
私や安室さんは上手いこと隙を見て抜け出すのだが、優しい梓さんは彼らの話に長々と付き合ってあげているのだ。
やっぱり私が行けばよかったか・・・。
「さん、もう上がってください。そろそろピークが過ぎますので!」
「大丈夫ですか?ではお先に失礼します。園子ちゃん、テニスの予定決まったら教えてね!」
「本当にいいんですか?じゃぁ計画立てますね〜!」
「楽しみにしてます!!!」
みんなに挨拶をして、帰りの支度をするためスタッフルームに入った。
「ふぅ・・・」
今日も、安室さんとあまり話せなかったな。
彼と付き合い始めて数ヶ月。
誰にでも優しく完璧な安室さんにダメ元で告白して、まさかのOKを貰えた時は夢かと思うほど嬉しかった。
ずっと私の片想いだと思っていたから、安室さんも好きでいてくれたんだなって。
しかし、未だにデートらしいデートをしたことがない。
ポアロで顔を合わせるか、夜どちらかの家に行くか・・・。
これは恋人と言って良いのかわからなくなってきた。
考えたくはないが、セフレ・・・と思われても仕方がない関係な気がする。
今日も彼は仕事上がりに私の家に来るだろう。
そして一晩私を抱いて、翌朝帰って行く・・・。
彼が必要としているのは"私"ではなく、私の"身体"なのだと思うと、とても虚しい。
それでも大好きな気持ちは変わらず、私は彼から離れることはできないのだ。
「よし、帰ろ・・・」
荷物を持って帰ろうとした時、コンコン、とノックの音と共に扉が開き、ハムサンドを手に想い人が現れた。
「安室さん・・・・・・あ、休憩ですか?」
「えぇ。店内がだいぶ落ち着いたので」
言われてみれば黄色い声が聞こえなくなっていたので、彼のファン達は帰ったようだ。
今日も相変わらず人気者だったな。
たまには私だけの安室さんでいてほしい・・・。