第2章 【安室 透】余裕のない裏の顔
────平日の昼下がり。
ポアロの店内は学校終わりの女子高生で賑わっている。
そのほとんどが安室透目当てのお客さんだ。
甘いルックスに優しい笑顔、細やかな気遣いに料理上手。
これらを目の当たりにした女の子は、たちまち彼の虜になってしまう。
「オレンジジュースとハムサンドお待たせしました」
「きゃー!ありがとうございます!!」
「あの!安室さん!勉強教えてもらえませんか!?」
毎日毎日、黄色い声が飛び交う中で働くのはもう慣れた。
慣れたのだが・・・・・・、自分の恋人が女子高生に囲まれているのを見なければならない辛さは、到底慣れそうにない。
何よ、誰にでもニコニコしちゃって。
腹の中は真っ黒なくせに!!
・・・なんてことは一切顔に出さず、彼と同じように飛び切りの笑顔で接客をする。
「いらっしゃいませ!あ、蘭ちゃんと園子ちゃん。おかえりなさい!」
「こんにちは〜今日も来ちゃいました!」
「さんに癒されに来ましたー!相変わらず綺麗だわぁ」
ポアロの上にある探偵事務所、毛利探偵の娘さんの蘭ちゃんと友達の園子ちゃん。
2人も毎日のように来てくれて私を姉のように慕ってくれている。
そんな2人を、私も妹のように可愛がっているのだ。
ふと入り口付近を見ると、いつもの顔ぶれの後ろに見慣れない顔があった。
「あれ?お友達?」
「あ、そうです!ほら早く入りなって!同じクラスの水嶋くん。さんに紹介してくれって煩くて・・・」
「お、おい!それは言わない約束だろ!?」
園子ちゃんに紹介されたのは、背が高くてスポーツが得意そうな爽やかイケメン。
この子も安室さんみたく、学校でモテモテなんだろうなぁ。
よく見ると・・・最近会ったことがあるような?
「もしかして・・・最近、お店に来てくれました?」
「え、あっはい!先月、1度だけ・・・。俺、水嶋颯太っていいます!すげぇ・・・覚えててくれてたんですね・・・」
名前も爽やかイケメンだ。
水嶋くんは、口を手で覆うと照れた様子で俯いた。
男子高校生であろうと、私からしたら弟のように可愛く見えてしまう。