第2章 リクエスト
それからというものの、雨栗さんの名前は伏せたまま、コツコツとリクエストの建築を配信しながら作り続けた。
やっぱ配信しながらだと集中力が長続きするし、雨栗さん、という名前だけで断然モチベが違う。
人にあげる建築だから、なおのこと力が入った。
「これ、リクエストの建築だからさ」
視聴者さんに話しながらも、本当は自分に何度も言い聞かせていた。雨栗さんの喜んでいる姿が見たい。実際会ったことはないけど。ありがとうの一言が欲しくて。
俺は俺なりに一生懸命建築をした。
「ここ気になるな〜」
城とは関係ないところまで手直ししながらも、なんとか時間をかけて完成したダークファンタジーな城。早速シェーダーをつけて撮影しなきゃ。あ、いい出来だ。
それを最後に配信を終えて、すぐに雨栗さんに送信した。返事は今は来ないかな。まぁいいか。今はいつでも返信出来るし、いつでも……。
「ありがとう。めっちゃすごいじゃん!」
え? 返信早くね?
「実は、アーカイブは少し見ていたんだ。頑張って作ってくれていたの知ってるよ」
配信アーカイブ見られてた? それはちょっと恥ずかしいな。
俺は嬉しくなるのを噛み殺しながら返事を打った。
「見てくれていて嬉しいです」
可愛げのない俺に懺悔。これじゃあ社交辞令だ。俺は少しでも雨栗さんに近づきたくて……。
雨栗さんに近づきたい?
いいや、違う。雨栗さんはずっと天にいて欲しい人だ。俺は追いかけるだけでいい。絶対追いつかないけど。この距離感でいい。ずっと想うだけでいい。
そう言い聞かせると胸の奥がチクリとした。俺、そんなに雨栗さんのことが好きだったんだなぁ。
そうか、これが片想いなのか。
人生初めての感情に、俺は一人ため息をついた。
おしまい