第8章 Jeremiah29:11
目は痛かったけど、たらふくカキフライを食べて、そしてソファに座ってゆったりとテレビを見ている。
隣には智が居る。
「食洗機って…あれ、乾かすこともできるの?」
テレビのCMを見ていた智が俺の方に顔を向けた。
「うん。殺菌にもなるからちょうどいいんだ」
「中の掃除はしてんの?」
「家政婦さんがいつもやるからわかんない」
「家政婦…?」
「あ、いつも週一で通ってもらってるの。今は頼んでないけど」
「あ…だから、散らかってんのか」
「…ごめんね。片付けする能力無くて」
食洗機の使い方は説明書をネットでダウンロードして調べた。
洗濯機もそうしないと使い方がわからなかった。
「おまえ野生に放り出されたらまっさきに死にそうだな」
「…死なないように智を雇うからいいよ」
「おまえ俺のことなんだと思ってんの?」
智は呆れると、こういう言い方をする。
毎回答えるのに困ってしまうが、今は答えられる。
「俺よりなんでも出来そうなお兄さん」
トンチンカンなことを言ったみたいで、智がへんてこりんな顔をした。
「わかったよ…良くなってきたら家事する」
「ええっ!?そんなのいいからね!?」
「まあ、今は無理だけど…できることがあったらしたほうがリハビリにもなるだろ?」
「そうだけど…でも、まだだめだからね?」
「わかった…」
楽しそうに笑うと、またテレビに視線を戻した。
「なあ、あのルンバってやつは…」
「あれは床に物があるとだめなんだ」
残念ながら導入を検討したことはあるけど、無理そうだなと思ったから。
「じゃあだめだな」
「即答かよ」
そう言ってふたりで笑い転げた。
今まで楽しいと思っていた刺激的な遊びをしてるわけじゃないのに、すごく楽しかった。
ギラギラした音楽もかかっていない、家の中で。
ねっとりとした視線を交わしてるわけでもないのに。
今までで、この夜が一番楽しかった。
【Jeremiah29:11 END】