第5章 John 20:11
『しかし、マリヤは墓の外に立って泣いていた。そして泣きながら、身をかがめて墓の中をのぞくと…』
ぽたり、何かが俺の頬に落ちてきた。
雨…?
雨にしちゃ、生暖かい。
誰かの手が俺の頬を撫でた。
落ちてきたものを拭うように指は動いた。
…マリア…?
いや、違う
これは
ここはどこだ…
俺はどこにいる…?
意識が浮上してくる。
明るい光が見える場所に向かって、身を任せる。
目を開くと、そこは明るい部屋。
「ああ…」
そうか。
翔の部屋…
まだ俺、翔の部屋に居られたんだ。
ゆっくりと部屋の中を見回す。
明るい部屋の中には、翔は居ないようだった。
レースカーテンからまばゆいばかりの陽の光が入ってきてる。
温かく、なんでも焼き尽くす太陽の光。
不意に、その光の中に陰が見えた──
カーテンの影から、ゆらりと現れた。
「智」
その声に聞き覚えがあった。
「…どうして…」
雅紀だった。
瞬時に動こうとしたが、ピクリとも体は動かなかった。
あれからどのくらい経過したかわからないが、俺の体はまだ回復の途上にあった。
「…遅くなって悪かったな」
──見つけられてしまった
きっと、電源を切るのが遅すぎた。
その前にGPSで居場所を特定されてたんだ。
「探すのに手間取ってね。悪かったな」
皮肉たっぷりな言い方。
俺がわざとスマホの電源を落としていたのを言ってるんだろう。