第4章 Proverbs 28:13
混乱する頭で、リビングのドアを開いて中を覗き込んだ。
「父さん!母さん!」
部屋の中は、いつもはレースカーテンが引いてあるはずだった。
でも閉まっていないみたいだった。
「……え……?」
見えたのは、床に倒れる───
「ちょっと通して!…社長!社長はいますか!?」
背後から、聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、真っ青な顔をした若い男が玄関から入ってくるところだった。
今日来ると聞いていた、父さんの会社の社員だった。
「智くん!?こんなとこで何をやってるんだ!学校は!?…それより、社長と副社長は!?」
「あ……え……?」
「智くん…?ちょっと、どいて?」
その人は動かない俺を押しのけると、リビングのドアから中を覗き込んだ。
ヒュッと大きく息を飲む音がした。
そのまま怯えた目で俺を見た──
「智くん…君が…やったのか!?」
「え…?」
なに、いってんのこの人。
「社長!…社長っ!」
その人は転けそうになりながら、リビングの中に入っていった。
「社長っ…どうして…どうして…!?」
リビングの奥から煙が充満してきてる。
その煙の中から男は、床に倒れてた父さんの側で跪き、恐ろしい顔で振り返り、俺を睨んだ。
「ち…ちがう…俺じゃ…」
「副社長っ…恵ちゃんっ…」
その人はリビングに倒れる俺の家族を見て、咆哮を上げて泣き出した。
俺は、逃げた
何が起こってるか、何もわからないまま
逃げて、逃げて逃げ回って
そのうち、テレビで家族を殺したのは俺じゃないかってことになってるのを知った
そして今も、逃げ回って
人の戸籍を買い取り、他人に成り済まして生きてる
人を殺しながら生きてる
それが、俺
家族を殺して逃げた
大野 智、という奴──
【第4章 Proverbs 28:13 END】