第20章 Romans5:3-4
「で?」
「爺さんと連絡が取れない」
「ぶはっ…」
カウンターの向こうで雅紀は盛大に噴き出した。
しかし俺に悪いと思ったのか、口元を押さえてなんとか笑わないようにしている。
「…いいから、笑えば?」
「ぶはっ…」
薄暗い店内の天井に向かって、カウンターに置いてある灰皿から雅紀の吸ってるタバコの紫煙が昇っていく。
今はまだ開店していない、雑居ビルに入っている昼間のショットバーだ。
雅紀がオーナーをしてる。
夜になると雇われ店長が来て店を切り盛りする。
雇われ店長には昼間は来るなと釘を差してある。
オーナーが別ビジネスをここでしているからと。
だから昼間はこの店に誰も来ることがない。
俺達の打ち合わせにはぴったりな場所だった。
この店の奥は寝泊まりはできるようにはしてあるが、雅紀の家は別にある。何個かあって、しばらく行ってないから今はどこに住んでるのか知らない。
暫く笑っていたが、波が引くとカウンターの中を歩いて、なにか瓶を持ってきた。
「悪かったな。これ、めっちゃいいコニャックだけど、飲む?」
「…車で来てる」
「そっか…じゃあ、こっちだな」
冷蔵庫からまた瓶を取り出してきた。
グラスに注ぐと、赤ワインみたいな色をしていた。
ぶどうジュースだった。