第18章 Genesis1:1-5
今日だけで何度そう聞かれだだろう。
「楽にねぇ……」
そう聞いてくる西島の顔が、なんだか少し子供みたいに思えてきて、笑えた。
「…楽になんてなるわけねえだろ」
5年以上前──
翔の家で、あの事件の『事実』に気づいた俺は。
しばらくの間、それまで事件のことを考えることができなかった事実にも苦しめられた。
それに事実に気づいてもなお、長年の思い込みで見るようになっていた悪夢も、まだ見ていた。
もちろん、翔に目を開いてもらって俺は楽になった。
だって俺は、家族を殺していなかったんだから……
これは感謝してもし足りない。
だけど目が閉じていた間にしてしまったことを…両手を真っ黒に染めてしまった現実は、ひどく俺を苦しめた。
そんな俺をまだ医学生だった翔は治療することができず…
雅紀に言われて、西島に俺を託した。
西島の家で俺は、投薬と認知療法ってやつをつきっきりで受けて。
おまけに感染症の後遺症に似ている症状もあったから、リハビリにも付き合ってもらった。
お陰で1年もしないうちに、体調は万全になった。
ただひとつ…
悪夢に魘されることは、西島にも完全には治すことはできなかった。
だって今見ている悪夢は…
俺が殺してきた奴らに変わってる。
楽になんて……
一生なれない。