第16章 Matthew10:34
ぼりぼりと頭を掻くと、立ち上がった。
「わかった。じゃあ、明日連れに来るから。智にそう言っておいてもらえる?」
もう諦めるしか、ない。
観念して頷く。
「まあ、元気になったらまた会えるって」
話にケリがついた途端に親しみやすい、親戚のおじさんみたいな雰囲気に変わった。
「でもさ。わかってると思うけど、俺達のことは口外するなよ?」
「わかってるよ」
「あの…松本とかいう子にも、そう言っといて貰える?」
「え?」
顔から血が引いていくのがわかった。
なんでこの人、潤のこと知ってるんだ?
「ちょろちょろと…智の過去、調べてるんだって?」
雅紀さんは、ちらりと床で伸びてる和也のほうを見た。
きっと和也って奴がコソコソ俺のあとを付け回してたに違いない。
「…雅紀さん、智の過去についてなんか聞いてる?」
「え?」
意外なことを聞かれたって顔して、俺を見る。
「まあ、粗方は聞いてると思うけど?」
詳しいことを言わないのは、俺のことまだ用心してるからだろう。
でも今はそんなことどうでもよかった。
「…なんだって今更、調べてるんだ?」
理解できないって顔をしてるのが、ちょっとおかしかった。
「もしも智の罪が、冤罪だったとしたら?」
そう言うと、雅紀さんの顔色が変わった。