第3章 Mark 3:29
──時間も、日付の感覚もなくなっていた。
あれから、高熱を出して何日も苦しんだ。
そりゃそうだろう。
ひどい風邪に、腹の刺し傷。
かなり深く抉られていたが、本当に不幸中の幸いで内臓には傷がついていなかったようだ。
しかし血が多く流れすぎたのと酷い風邪も相まって、体の回復がだいぶ遅れた。
それどころか、一時期は命の危険すらあったらしい。
アイツ……翔という名前だという。
翔はどこからか薬や点滴を入手してきて、俺に投与してくれた。
傷口の消毒から食事や下の世話まで、甲斐甲斐しく面倒みてくれて。
お陰で体は、なんとかゆっくりとだが楽にはなってきている。
「俺って天才かもしれない」
傷口の消毒をしながら、翔はその出来栄えに得意げな顔をしている。
「…ツギハギするだけなら、小学校の家庭科でやる」
「また、そんなこと言って。めちゃめちゃ感謝してるでしょ?」
「…してない」
「あ、またそういう事言う」
「してない」
そういいながらも、翔はご機嫌で傷口の消毒を終えた。
「形成外科にしよっかな?んで美容外科医院開いて大儲け」
「やめとけ。絶対」
「なんでよ」
「いいから、悪いことは言わない」
「アンタ、助けて貰っといて言うよねえ」
笑いながら手をタオルで拭くと、翔は立ち上がった。
「…いい加減、名前教えてくんない?」