第12章 Ave Maris Stella
どうしてこんなことになってしまったのか。
なぜか俺は毎晩、智と一緒にベッドに入って寝ている。
しかも智の腕枕で。
「おい、翔」
「な、なんだよ」
「もう寝るぞ」
夜も更けた頃。
リビングでいつものようにテレビを見ていた智が、ダイニングテーブルで勉強している俺を振り返った。
「まだ寝ないってば」
「寝る」
「一人で寝ればいいだろ!」
「早く」
せっかく試験勉強をしていても、次の実習の準備をしていても。
智は強引に一緒に寝ようとする。
時間差で俺がソファベッドで寝ることを阻止するために。
「…だからさ…先に寝ててよ」
「ヤダ」
まただ…
あの顎を出してるの、一体なんの感情表現なんだろう。
「俺まだ明日の準備しなきゃいけないの」
「……」
「知ってる?俺ね、医学生っていうのやってるの」
「……」
「医学生って、やることいっぱいあるの」
「……」
「だからね、普通の大学と違って6年も通わなきゃいけないの」
そう言うと、がびんって顔をして俺のこと見てる。
「…もしかして知らなかったの?」
「知らなかった。医者って6年も通わないとなれないんだ」
「それだけじゃないよ。6年通って、国試…医師国家試験に合格したとしても、そこから研修医として何年か働かないとちゃんとした医者になれないんだよ」
「ええ…?6年も勉強したのに?」
「人の体ってね、まだわかってないことのほうが多いんだよ」